特殊相対論的量子力学の方程式であるDirac方程式は,次の式で与えられます.
ここで,
です.γは4×4の行列でガンマ行列といい,σは2×2の行列でPauli行列です.また,mは質量です.
対応するLagrangian密度は,
です.ただし,Minkowski共役な場,
を導入しました.このLagrangian密度をEuler-Lagrange方程式,
に代入すると,確かにDirac方程式が導出されることを確認しておきましょう.Euler-Lagrange方程式のφは,この場合,に置き換えます.まず,第1項は,
となります.次に,第2項は,
となります.したがって,Euler-Lagrange方程式は,
となります.確かに,Dirac方程式が導かれました.
Hamiltonian密度も求めておきましょう.一般化運動量πは,
ここで,
となるので,
となります.したがって,Hamiltonian密度は,
(Dirac方程式より,)
と導かれます.
量子論ではオブザーバブルは演算子で表されることになります.Dirac場ψを演算子に格上げした瞬間に,場の量子化が実行されたことになります.この際,演算子は積の順序が問題となりますので,交換関係を設定することになります.このような交換関係による量子化のことを正準量子化といいます.ただし,Dirac場が記述するのはFermionなので反交換関係を設定しなければなりません.Dirac場ψとその一般化運動量πの間に次の同時刻反交換関係を設定します.
ただし,反交換子は,
で定義されます.演算子を表すハットは省略しました.また,場の量ψやπは連続量なので,δ関数を使って反交換関係を表しています.
次に,場ψをFourier変換します.
σは電子のスピンの自由度を表します.また,単にxやkと書いているのは,
を意味します.したがって,kxの表記で,
を表します.また,ωとの間には,特殊相対性理論の要請より,
の関係が成立します.これを,On-shell条件といいます.このとき,
となります.Minkowski共役な場は,
となります.ここで,展開係数はエルミート演算子で,次の反交換関係が成立します.
反交換関係(3)式が成立することを確認するために,場φをFourier変換した(2)式をもとの同時刻反交換関係(1)式の左辺に代入して,(3)式を使って(1)式が成立することを確かめます.
(に加え,より,も成立します.)
(柏太郎著”演習場の量子論”サイエンス社
p41 (2.94)(2.95)式より)(の1次元の式より,3次元にして,
が成立します.)
同様にして,(1)式の残りの2式も確かめることができます.
Hamiltonianを展開係数で表してみましょう.Hamiltonianは,
です.ここで,
において,エルミート共役をとると,
となります.上のHamiltonianに代入して計算します.
(の1次元の式より,3次元にして,
が成立します.)
(に加え,より,が成立します.)
(柏太郎著”演習場の量子論”サイエンス社
p41 (2.91)(2.92)式より)
ここで,第3項はデルタ関数の性質
より,のときのωの値が出てくることになります.
これは定数なので,エネルギー軸の原点をずらして0にすることができます.したがって,Hamiltonianは,
で与えられることになります.