特殊相対論的量子力学の方程式であるKlein-Gordon方程式は,次の式で与えられます.
ここで,
であり,mは質量です.また,φ(x)は一成分のみの波動場で,ローレンツ変換,
について,
と変換されるとすれば,ローレンツ変換の下でKlein-Gordon方程式は,
となります.ここで,はローレンツ不変量であり,
が成立するので,
となります.は,と全く同形の方程式を満たすことが要求されるので,φのローレンツ変換性は,
となります.この変換性はスカラーなので,φはスカラー場とも呼ばれます.
φ(x)が実数の場合,つまり実Klein-Gordon場の場合,対応するLagrangian密度は,
となります.このLagrangian密度をEuler-Lagrange方程式,
に代入すると,確かにKlein-Gordon方程式が導出されることを確認しておきましょう.まず,第1項は,
となります.第2項を計算するため,Lagrangian密度を,
と変形しておきます.μやνをρやσに置き換えても,Einsteinの規約によりそれぞれ和をとることになりますので,問題ありません.このとき,
となります.1行目から2行目への変形にはを使いました.2行目から3行目への変形は,によって,添え字を上に上げたのですね.したがって,Euler-Lagrange方程式は,
となります.確かに,Klein-Gordon方程式が導かれました.
Hamiltonian密度も求めておきましょう.一般化運動量πは,
となります.したがって,Hamiltonian密度は,
と導かれます.
Klein-Gordon場φ(x)が複素数の場合,つまり複素Klein-Gordon場の場合は,独立な場はとこれにエルミート共役な関係にある場の2種類となり,それぞれKlein-Gordon方程式を満たします.このとき,Lagrangian密度は,
になります.確かに,このLagrangian密度からEuler-Lagrange方程式により,複素Klein-Gordon方程式が導出されることを確認しましょう.
の第1項は,
となります.また,
となります.このとき,Euler-Lagrange方程式は,
となり,エルミート共役をとったKlein-Gordon方程式が導かれます.次にエルミート共役をとっていないφ(x)についての関係を導くには,このエルミート共役をとったKlein-Gordon方程式について,さらに両辺エルミート共役をとります.このとき,
が成立します.以上で,複素Klein-Gordon方程式が計2式導かれました.
Hamiltonian密度も求めておきましょう.まず,に共役な一般化運動量は,
となります.したがって,Hamiltonian密度は,
となります.
量子論ではオブザーバブルは演算子で表されることになります.実Klein-Gordon場φを演算子に格上げした瞬間に,場の量子化が実行されたことになります.この際,演算子は積の順序が問題となりますので,交換関係を設定することになります.このような交換関係による量子化のことを正準量子化といいます.量子力学での位置演算子と運動量演算子の間の交換関係,
を参考にして,実Klein-Gordon場φとその一般化運動量πの間に次の同時刻交換関係を設定します.
演算子を表すハットは省略しました.また,場の量φやπは連続量なので,δ関数を使って交換関係を表しています.
次に,場φをFourier変換します.
単にxやkと書いているのは,
を意味します.したがって,kxの表記で,
を表します.また,ωとの間には,特殊相対性理論の要請より,
の関係が成立します.これを,On-shell条件といいます.このとき,
となります.場φをFourier変換した式には,第2項が付いています.これは,φが実の場,つまり,エルミートの場であることを満たすために付け加えられたものです.確かに,(2)式より,
となります.ここで,展開係数はエルミート演算子で,次の交換関係が成立します.
交換関係(3)式が成立することを確認するために,場φをFourier変換した(2)式をもとの同時刻交換関係(1)式の左辺に代入して,(3)式を使って(1)式が成立することを確かめます.
(に加え,より,も成立します.)
(の1次元の式より,3次元にして,
が成立します.)
同様にして,(1)式の残りの2式も確かめることができます.
Hamiltonianを展開係数で表してみましょう.Hamiltonianは,
です.ここで,
でしたが,
より,
となります.上のHamiltonianに代入して計算します.
(の1次元の式より,3次元にして,
が成立します.)
(に加え,より,が成立します.)
ここで,第2項はデルタ関数の性質
より,のときのωの値が出てくることになります.
これは定数なので,エネルギー軸の原点をずらして0にすることができます.したがって,Hamiltonianは,
で与えられることになります.
実Klein-Gordon場の場合と同様に,複素Klein-Gordon場φとその一般化運動量πの間に次の同時刻交換関係を設定し量子化します.ただし,との関係がありました.
演算子を表すハットは省略しています.また,場の量φやπは連続量なので,δ関数を使って交換関係を表しています.
次に,場φをFourier変換します.
この式のエルミート共役をとると,
です.演算子bが導入されましたので,φは実の場ではないことがわかります.ここで,展開係数はエルミート演算子で,次の交換関係が成立します.
交換関係(6)式が成立することを確認するために,場φをFourier変換した(5)式をもとの同時刻交換関係(4)式の左辺に代入して,(6)式を使って(5)式が成立することを確かめます.
最後の式は,前Sectionの実Klein-Gordon場の交換関係についての途中の計算式と全く同じです.したがって,以下,同じ計算により,
が導出されます.同様にして,(4)式の残りの全ての式も確かめることができます.
Hamiltonianを展開係数で表してみましょう.Hamiltonianは,
です.ここで,
でしたが,
より,
となります.上のHamiltonianに代入して計算します.
(の1次元の式より,3次元にして,
が成立します.)
(に加え,より,が成立します.)
最後の定数項は,前Sectionのときと同様にして,0にすることができます.したがって,Hamiltonianは,
となります.