Chapter2 Klein-Gordon場(Scalar場)

2.1 実Klein-Gordon場の古典論

特殊相対論的量子力学の方程式であるKlein-Gordon方程式は,次の式で与えられます.

ここで,

であり,mは質量です.また,φ(x)は一成分のみの波動場で,ローレンツ変換,

について,

と変換されるとすれば,ローレンツ変換の下でKlein-Gordon方程式は,

となります.ここで,はローレンツ不変量であり,

が成立するので,

となります.は,と全く同形の方程式を満たすことが要求されるので,φのローレンツ変換性は,

となります.この変換性はスカラーなので,φはスカラー場とも呼ばれます.
 φ(x)が実数の場合,つまり実Klein-Gordon場の場合,対応するLagrangian密度は,

となります.このLagrangian密度をEuler-Lagrange方程式,

に代入すると,確かにKlein-Gordon方程式が導出されることを確認しておきましょう.まず,第1項は,

となります.第2項を計算するため,Lagrangian密度を,

と変形しておきます.μやνをρやσに置き換えても,Einsteinの規約によりそれぞれ和をとることになりますので,問題ありません.このとき,

となります.1行目から2行目への変形にはを使いました.2行目から3行目への変形は,によって,添え字を上に上げたのですね.したがって,Euler-Lagrange方程式は,

となります.確かに,Klein-Gordon方程式が導かれました.
 Hamiltonian密度も求めておきましょう.一般化運動量πは,

となります.したがって,Hamiltonian密度は,

と導かれます.

 

2.2 複素Klein-Gordon場の古典論

Klein-Gordon場φ(x)が複素数の場合,つまり複素Klein-Gordon場の場合は,独立な場はとこれにエルミート共役な関係にある場の2種類となり,それぞれKlein-Gordon方程式を満たします.このとき,Lagrangian密度は,

になります.確かに,このLagrangian密度からEuler-Lagrange方程式により,複素Klein-Gordon方程式が導出されることを確認しましょう.

の第1項は,

となります.また,

となります.このとき,Euler-Lagrange方程式は,

となり,エルミート共役をとったKlein-Gordon方程式が導かれます.次にエルミート共役をとっていないφ(x)についての関係を導くには,このエルミート共役をとったKlein-Gordon方程式について,さらに両辺エルミート共役をとります.このとき,

が成立します.以上で,複素Klein-Gordon方程式が計2式導かれました.
 Hamiltonian密度も求めておきましょう.まず,に共役な一般化運動量は,

となります.したがって,Hamiltonian密度は,

となります.

 

2.3 実Klein-Gordon場の正準量子化

量子論ではオブザーバブルは演算子で表されることになります.実Klein-Gordon場φを演算子に格上げした瞬間に,場の量子化が実行されたことになります.この際,演算子は積の順序が問題となりますので,交換関係を設定することになります.このような交換関係による量子化のことを正準量子化といいます.量子力学での位置演算子と運動量演算子の間の交換関係,

を参考にして,実Klein-Gordon場φとその一般化運動量πの間に次の同時刻交換関係を設定します.

演算子を表すハットは省略しました.また,場の量φやπは連続量なので,δ関数を使って交換関係を表しています.
 次に,場φをFourier変換します.

単にxやkと書いているのは,

を意味します.したがって,kxの表記で,

を表します.また,ωとの間には,特殊相対性理論の要請より,

の関係が成立します.これを,On-shell条件といいます.このとき,

となります.場φをFourier変換した式には,第2項が付いています.これは,φが実の場,つまり,エルミートの場であることを満たすために付け加えられたものです.確かに,(2)式より,

となります.ここで,展開係数はエルミート演算子で,次の交換関係が成立します.

交換関係(3)式が成立することを確認するために,場φをFourier変換した(2)式をもとの同時刻交換関係(1)式の左辺に代入して,(3)式を使って(1)式が成立することを確かめます.

 

 

 

 

に加え,より,も成立します.)

 

の1次元の式より,3次元にして,
が成立します.)

 

 

同様にして,(1)式の残りの2式も確かめることができます.
 Hamiltonianを展開係数で表してみましょう.Hamiltonianは,

 

です.ここで,

でしたが,

より,

となります.上のHamiltonianに代入して計算します.

 

 

の1次元の式より,3次元にして,
が成立します.)

 

に加え,より,が成立します.)

 

 

 

 

 

ここで,第2項はデルタ関数の性質

より,のときのωの値が出てくることになります.

これは定数なので,エネルギー軸の原点をずらして0にすることができます.したがって,Hamiltonianは,

で与えられることになります.

 

2.4 複素Klein-Gordon場の正準量子化

実Klein-Gordon場の場合と同様に,複素Klein-Gordon場φとその一般化運動量πの間に次の同時刻交換関係を設定し量子化します.ただし,の関係がありました.

演算子を表すハットは省略しています.また,場の量φやπは連続量なので,δ関数を使って交換関係を表しています.
 次に,場φをFourier変換します.

この式のエルミート共役をとると,

です.演算子bが導入されましたので,φは実の場ではないことがわかります.ここで,展開係数はエルミート演算子で,次の交換関係が成立します.

交換関係(6)式が成立することを確認するために,場φをFourier変換した(5)式をもとの同時刻交換関係(4)式の左辺に代入して,(6)式を使って(5)式が成立することを確かめます.

 

 

 

 

最後の式は,前Sectionの実Klein-Gordon場の交換関係についての途中の計算式と全く同じです.したがって,以下,同じ計算により,

が導出されます.同様にして,(4)式の残りの全ての式も確かめることができます.
 Hamiltonianを展開係数で表してみましょう.Hamiltonianは,

 

です.ここで,

でしたが,

より,

となります.上のHamiltonianに代入して計算します.

 

 

の1次元の式より,3次元にして,
が成立します.)

 

に加え,より,が成立します.)

 

 

 

 

 

 

最後の定数項は,前Sectionのときと同様にして,0にすることができます.したがって,Hamiltonianは,

となります.