正弦波を表す式を導出します.つまり,正弦波の波動一般量の時間的,かつ空間的変化を表すことにします.まず,原点の調和振動子の振動の波動一般量 は,
です.ここで, は振幅であり,簡単のため初期位相は にしました.ここで,ある時刻 において,原点での波動一般量 を図のように示しておきます.
時間が経過し,波動が だけ進行します.そのときの時刻を とします.
原点 の波動一般量が,原点から 離れた点 に伝わるのに,時間 だけかかります.したがって,
の関係があります.以上のことをまとめると,
"時刻 における点 の波動一般量は,時刻 における原点 の波動一般量に等しくなります."
ということになります.故に,正弦波を表す式は,
ですから,次のようになります.
ただし, は次式で定義される物理量であり,波数といいます.
つまり,波数は長さ の中に含まれる波の数になります.また,上式より,
が成立します.
正弦波を表す式には,波動一般量 に対して時間 と空間 の2変数が含まれます.したがって,この式を1つの図に表すことはできません.そこで,時間を止めて波動一般量 の空間的変化を調べるか,またはある位置に着目して波動一般量 の時間的変化を調べるしか方法がありません.例えば,時間を に固定すると,正弦波を表す式は,
となりますが,このグラフは正弦曲線をなし,時刻 に時間を止めたときの波形を表します.一方,ある位置として原点 を選ぶと,正弦波を表す式は,
となりますが,このグラフも正弦曲線をなします.しかし,この正弦曲線は波形を表すのではないことに注意しましょう.原点という位置における波動一般量 の時間的変化,つまり,振動によって波動一般量 が時間とともにどのように変化するかを示しています.
次に,正弦波の位相について説明しておきます.正弦波は各点が調和振動子の振動をしていますが,調和振動子の運動は等速円運動の正射影の運動でした.そのとき,等速円運動の角度部分は調和振動子の位相です.したがって,正弦波の場合も各点の調和振動に各点の等速円運動が対応し,各点の位相が存在します.この各点の位相のことを正弦波の位相といいます.式の上では,正弦波を表す式の正弦の角度部分,すなわち上式では, が正弦波の位相になります.また,位相の意味を考えて,それを図示します.
図の各点の が正弦波の位相です.この図からわかるように,位置が1波長進むと位相は 遅れます.また,時間が1周期進むと位相は 進みます.
このSectionの最後に,負の方向に進む正弦波を表す式を与えておきます.この式は,上の議論と全く同様に導出できますが,簡単に伝播速度 を に置き換えるだけでも求められます.
波形が形を変えずに,一定の速さ で正の方向に進む波動を考えましょう.ただし,波形は任意のものとします.原点における時刻 での波動一般量 は,
と表せます.関数 は任意であり,原点での振動の時間的変化を表します.時間が経過し,波動が だけ進行します.そのときの時刻を とします.状況を図に示します.
原点 の波動一般量が,原点から 離れた点 に伝わるのに,時間 だけかかります.したがって,
の関係があります.以上のことをまとめると,
"時刻 における点 の波動一般量は,時刻 における原点 の波動一般量に等しくなります."
ということになります.故に,1次元一般波動を表す式は,
ですから,
となります.ここで, が の全く任意の関数であることに注意しましょう.このとき,時間 を固定すると,その瞬間における は波形を表しますが,この波形は縦軸が波動一般量の波形です. が変位の場合に限り,実際に目に見える波形に一致します.一方,位置 を固定すると, はその点における振動の時間的変化を表します.また,波動が負の方向に進む場合も,上記と同様な議論により波動一般量を表す式が導かれますが,ここでは簡単に波動の速さ を に置き換えるだけで求めることができます.その結果は次のようになります.
以上のような波動を1次元一般波動と呼ぶことにしましょう.ここで,正弦波も1次元一般波動の形になっていることは明らかです.また,余弦関数を用いても正弦波を表すことができます.これは初期位相を 進めることに相当します.さらに,複素数の指数関数を用いても正弦波を表すことができます.この関数の実数部は余弦関数,虚数部は正弦関数だからです.以上の正弦波をまとめて記しておきます.
それぞれ, の前の符号が負のとき正の方向に伝わる正弦波を表し, の前の符号が正のとき負の方向に伝わる正弦波を表します.
一定の波形,一定の速さで伝搬する波動は,前のSectionで述べたように,
という形をもちます.上の式が,正の方向に進行する1次元一般波動,下の式が負の方向に進行する1次元一般波動を表します.このとき, が満たす方程式を求めてみましょう.
まず,正の方向に進む波動について調べてみます.
とおき, の についての2次導関数を求めてみます.
続けて, の についての2次導関数も求めてみます.
故に,次の1次元波動方程式といわれる,波動についての基礎方程式が成立します.
次に,負の方向に進む波動について調べてみます.
とおき, の についての2次導関数を求めてみます.
続けて, の についての2次導関数も求めてみます.
したがって,負の方向に進む波動についても,1次元波動方程式(5.1)式が,やはり成立します.
また,
の形の も1次元波動方程式(5.1)式を満たします.このことを,次のように確かめておきます. の についての2次導関数を求めてみます.
続けて, の についての2次導関数も求めてみます.
故に, は1次元波動方程式(5.1)式を満たすことが確認されました.
逆に,1次元波動方程式(5.1)式を満たす関数は,
のいずれかの形をもつことを示しておきます.
ですから,
の関係があります. の についての2次導関数を求めてみます.
の についての2次導関数も求めてみます.
これらを1次元波動方程式(5.1)式に代入して計算します.
最後の式を について積分すると,
となります.ただし, は に依らず, の任意の関数です.この式を について積分し,計算すると次式を得ます.
はそれぞれ の任意の関数です.したがって,恒等的に 0 でも可です.よって,1次元波動方程式(5.1)式を満たす関数は,1次元一般波動の形,
をもつことが導出されました.また,正弦波は1次元一般波動の一部として含まれるので,1次元波動方程式の1つの解として,正弦波(正弦関数,余弦関数,複素数の指数関数でそれぞれ表現されます.)があることにも注意しておきましょう.
3次元一般平面波を考えましょう.単位ベクトル の向きに一定の速度 で進む平面波の波面の方程式は,(ただし,時刻 において平面は原点を通る場合を考えます.)
です.ただし,波形は形を変えずに進行しますが,波形は任意のものとします.原点を通る平面における時刻 での波動一般量 は,
です.関数 は任意であり,原点を含む平面での波動一般量 を次の図のように示しておきます.(青枠の平面です.)時間が経過し,平面波が 進行します.(緑枠の平面です.)そのときの時刻を とします.
原点 を含む平面上の波動一般量 が,原点から 離れた平面上の点 に伝わるのに,時間,
だけかかります.したがって,
の関係があります.以上のことをまとめると,
"時刻 における点 を含む平面上の波動一般量は時刻 における原点 を含む平面上の波動一般量に等しくなります."
ということになります.故に,3次元一般平面波を表す式は,
時刻 における点 を含む平面上の波動一般量 | ||
時刻 における原点 を含む平面上の波動一般量 |
ですから,
となります.ここで,波動が負の方向に進む場合も,上記と同様な議論により波動一般量を表す式が導けますが,ここでは簡単に伝搬速度 を に置き換えるだけで求めておきます.その結果は次のようになります.
以上が,3次元一般平面波を表す式です.
3次元正弦波は3次元一般平面波の一種になります.正弦関数を使った正の方向に進行する正弦波については,表式は次のようになります.
ここで,
として波数ベクトルを表記すると,このベクトルは大きさが波数を示し,向きは波動の進行方向を表します.このとき, は,
となります.負の方向に進行する波動も含めて,他の3次元正弦波も同じように導出できます.3次元正弦波をまとめておきます.
一定の波形,一定の速さで伝搬する3次元一般平面波は,前のSectionで述べたように,
という形をもちます.上の式が,正の方向に進行する3次元一般平面波,下の式が負の方向に進行する3次元一般平面波を表します.このとき, が満たす方程式を求めてみましょう.
まず,正の方向に進む波動について調べてみます.
とおき, の についての2次導関数を求めてみます.
続けて, の についての2次導関数も求めてみます.
についても同様です.故に,
ですが, は単位ベクトルであり,右辺の の についての2階微分を の時間の2階微分でおきかえると,
となります.したがって,次の3次元波動方程式といわれる,3次元一般平面波についての基礎方程式が成立します.
ここで,記号ナブラ ,
を導入すると,
となりますので,3次元波動方程式は,
と表すことができます.
次に,負の方向に進む波動について調べてみます.
とおき, の についての2次導関数を求めてみます.
続けて, の についての2次導関数も求めてみます.
についても同様です. の と についての2次の導関数の表式が正の方向に進行する場合の を で置き換えたものなので,3次元波動方程式(5.2)の導出は前述のものと同様になります.
また,
の形の も3次元波動方程式(5.2)式を満たします.このことを,次のように確かめておきます. の についての2次導関数を求めてみます.
続けて, の についての2次導関数も求めてみます.
についても同様です.故に,
ですが, は単位ベクトルであり,右辺の括弧の中を の時間の2階微分でおきかえると,
となります.故に, は3次元波動方程式(5.2)式を満たすことが確認されました.
逆に,3次元波動方程式(5.2)式を満たす関数は,
のいずれかの形をもつことを示しておきます.
なので,
となります. の についての2次導関数を求めてみます.
の についての2次導関数も求めてみます.
についても同様な式が得られます.これらを3次元波動方程式(5.2)式に代入して計算します.
最後の式を について積分すると,
となります.ただし, は を含まない の任意の関数です.この式を について積分し,計算していきます.
はそれぞれ の任意の関数です.したがって,恒等的に 0 でも可です.よって,3次元波動方程式(5.2)式を満たす関数は,3次元一般波動の形,
をもつことが導出されました.また,正弦波は3次元一般波動の一部として含まれるので,3次元波動方程式の1つの解として,正弦波(正弦関数,余弦関数,複素数の指数関数でそれぞれ表現されます.)があることにも注意しておきましょう.
次に,3次元球面波が1次元波動方程式(5.1)式と同形の方程式の解として得られることを示します.便宜上,波源を原点におきます.点 の波源からの距離 は,
です.故に,次の関係があることがわかります.
についても,同様な式が得られます.したがって,次式を得ます.
最後の式を,3次元波動方程式(5.2)式に代入して変形します.
これは,1次元波動方程式(5.1)式において, を で置き換えた式なので,その解は次の通りです.
最後の式の右辺第1項は,波源からあらゆる方向へ速さ で伝わる波動を,右辺第2項はあらゆる方向から速さ で波源に集まる波動を表しています.また,それぞれの項に の逆数が含まれているのは,波源から離れると振幅が減少することを示しています.