正弦波を表す式を導出します.つまり,正弦波の波動一般量の時間的,かつ空間的変化を表すことにします.まず,原点の調和振動子の振動の波動一般量
は,
です.ここで, は振幅であり,簡単のため初期位相は
にしました.ここで,ある時刻
において,原点での波動一般量
を図のように示しておきます.
Figure5.1: 正弦波3
時間が経過し,波動が だけ進行します.そのときの時刻を
とします.
Figure5.2: 正弦波4
原点 の波動一般量が,原点から
離れた点
に伝わるのに,時間
だけかかります.したがって,
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の関係があります.以上のことをまとめると,
"時刻 における点
の波動一般量は,時刻
における原点
の波動一般量に等しくなります."
ということになります.故に,正弦波を表す式は,
ですから,次のようになります.
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ただし, は次式で定義される物理量であり,波数といいます.
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つまり,波数は長さ の中に含まれる波の数になります.また,上式より,
が成立します.
正弦波を表す式には,波動一般量 に対して時間
と空間
の2変数が含まれます.したがって,この式を1つの図に表すことはできません.そこで,時間を止めて波動一般量
の空間的変化を調べるか,またはある位置に着目して波動一般量
の時間的変化を調べるしか方法がありません.例えば,時間を
に固定すると,正弦波を表す式は,
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となりますが,このグラフは正弦曲線をなし,時刻 に時間を止めたときの波形を表します.一方,ある位置として原点
を選ぶと,正弦波を表す式は,
となりますが,このグラフも正弦曲線をなします.しかし,この正弦曲線は波形を表すのではないことに注意しましょう.原点という位置における波動一般量 の時間的変化,つまり,振動によって波動一般量
が時間とともにどのように変化するかを示しています.
次に,正弦波の位相について説明しておきます.正弦波は各点が調和振動子の振動をしていますが,調和振動子の運動は等速円運動の正射影の運動でした.そのとき,等速円運動の角度部分は調和振動子の位相です.したがって,正弦波の場合も各点の調和振動に各点の等速円運動が対応し,各点の位相が存在します.この各点の位相のことを正弦波の位相といいます.式の上では,正弦波を表す式の正弦の角度部分,すなわち上式では,
が正弦波の位相になります.また,位相の意味を考えて,それを図示します.
Figure5.3: 位相
図の各点の
が正弦波の位相です.この図からわかるように,位置が1波長進むと位相は
遅れます.また,時間が1周期進むと位相は
進みます.
このSectionの最後に,負の方向に進む正弦波を表す式を与えておきます.この式は,上の議論と全く同様に導出できますが,簡単に伝播速度 を
に置き換えるだけでも求められます.
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波形が形を変えずに,一定の速さ で正の方向に進む波動を考えましょう.ただし,波形は任意のものとします.原点における時刻
での波動一般量
は,
と表せます.関数 は任意であり,原点での振動の時間的変化を表します.時間が経過し,波動が
だけ進行します.そのときの時刻を
とします.状況を図に示します.
Figure5.4: 1次元一般波動
原点 の波動一般量が,原点から
離れた点
に伝わるのに,時間
だけかかります.したがって,
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の関係があります.以上のことをまとめると,
"時刻 における点
の波動一般量は,時刻
における原点
の波動一般量に等しくなります."
ということになります.故に,1次元一般波動を表す式は,
ですから,
となります.ここで, が
の全く任意の関数であることに注意しましょう.このとき,時間
を固定すると,その瞬間における
は波形を表しますが,この波形は縦軸が波動一般量の波形です.
が変位の場合に限り,実際に目に見える波形に一致します.一方,位置
を固定すると,
はその点における振動の時間的変化を表します.また,波動が負の方向に進む場合も,上記と同様な議論により波動一般量を表す式が導かれますが,ここでは簡単に波動の速さ
を
に置き換えるだけで求めることができます.その結果は次のようになります.
以上のような波動を1次元一般波動と呼ぶことにしましょう.ここで,正弦波も1次元一般波動の形になっていることは明らかです.また,余弦関数を用いても正弦波を表すことができます.これは初期位相を
進めることに相当します.さらに,複素数の指数関数を用いても正弦波を表すことができます.この関数の実数部は余弦関数,虚数部は正弦関数だからです.以上の正弦波をまとめて記しておきます.
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それぞれ, の前の符号が負のとき正の方向に伝わる正弦波を表し,
の前の符号が正のとき負の方向に伝わる正弦波を表します.
一定の波形,一定の速さで伝搬する波動は,前のSectionで述べたように,
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という形をもちます.上の式が,正の方向に進行する1次元一般波動,下の式が負の方向に進行する1次元一般波動を表します.このとき, が満たす方程式を求めてみましょう.
まず,正の方向に進む波動について調べてみます.
とおき, の
についての2次導関数を求めてみます.
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続けて, の
についての2次導関数も求めてみます.
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故に,次の1次元波動方程式といわれる,波動についての基礎方程式が成立します.
次に,負の方向に進む波動について調べてみます.
とおき, の
についての2次導関数を求めてみます.
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続けて, の
についての2次導関数も求めてみます.
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したがって,負の方向に進む波動についても,1次元波動方程式(5.1)式が,やはり成立します.
また,
の形の も1次元波動方程式(5.1)式を満たします.このことを,次のように確かめておきます.
の
についての2次導関数を求めてみます.
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続けて, の
についての2次導関数も求めてみます.
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故に, は1次元波動方程式(5.1)式を満たすことが確認されました.
逆に,1次元波動方程式(5.1)式を満たす関数は,
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のいずれかの形をもつことを示しておきます.
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ですから,
の関係があります. の
についての2次導関数を求めてみます.
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の
についての2次導関数も求めてみます.
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これらを1次元波動方程式(5.1)式に代入して計算します.
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最後の式を について積分すると,
となります.ただし,
は
に依らず,
の任意の関数です.この式を
について積分し,計算すると次式を得ます.
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はそれぞれ
の任意の関数です.したがって,恒等的に 0 でも可です.よって,1次元波動方程式(5.1)式を満たす関数は,1次元一般波動の形,
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をもつことが導出されました.また,正弦波は1次元一般波動の一部として含まれるので,1次元波動方程式の1つの解として,正弦波(正弦関数,余弦関数,複素数の指数関数でそれぞれ表現されます.)があることにも注意しておきましょう.
3次元一般平面波を考えましょう.単位ベクトル の向きに一定の速度
で進む平面波の波面の方程式は,(ただし,時刻
において平面は原点を通る場合を考えます.)
です.ただし,波形は形を変えずに進行しますが,波形は任意のものとします.原点を通る平面における時刻 での波動一般量
は,
です.関数 は任意であり,原点を含む平面での波動一般量
を次の図のように示しておきます.(青枠の平面です.)時間が経過し,平面波が
進行します.(緑枠の平面です.)そのときの時刻を
とします.
Figure5.5: 3次元一般平面波
原点 を含む平面上の波動一般量
が,原点から
離れた平面上の点
に伝わるのに,時間,
だけかかります.したがって,
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の関係があります.以上のことをまとめると,
"時刻 における点
を含む平面上の波動一般量は時刻
における原点
を含む平面上の波動一般量に等しくなります."
ということになります.故に,3次元一般平面波を表す式は,
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![]() ![]() ![]() ![]() |
ですから,
となります.ここで,波動が負の方向に進む場合も,上記と同様な議論により波動一般量を表す式が導けますが,ここでは簡単に伝搬速度 を
に置き換えるだけで求めておきます.その結果は次のようになります.
以上が,3次元一般平面波を表す式です.
3次元正弦波は3次元一般平面波の一種になります.正弦関数を使った正の方向に進行する正弦波については,表式は次のようになります.
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ここで,
として波数ベクトルを表記すると,このベクトルは大きさが波数を示し,向きは波動の進行方向を表します.このとき,
は,
となります.負の方向に進行する波動も含めて,他の3次元正弦波も同じように導出できます.3次元正弦波をまとめておきます.
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一定の波形,一定の速さで伝搬する3次元一般平面波は,前のSectionで述べたように,
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という形をもちます.上の式が,正の方向に進行する3次元一般平面波,下の式が負の方向に進行する3次元一般平面波を表します.このとき,
が満たす方程式を求めてみましょう.
まず,正の方向に進む波動について調べてみます.
とおき,
の
についての2次導関数を求めてみます.
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続けて,
の
についての2次導関数も求めてみます.
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についても同様です.故に,
ですが, は単位ベクトルであり,右辺の
の
についての2階微分を
の時間の2階微分でおきかえると,
となります.したがって,次の3次元波動方程式といわれる,3次元一般平面波についての基礎方程式が成立します.
ここで,記号ナブラ ,
を導入すると,
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となりますので,3次元波動方程式は,
と表すことができます.
次に,負の方向に進む波動について調べてみます.
とおき,
の
についての2次導関数を求めてみます.
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続けて,
の
についての2次導関数も求めてみます.
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についても同様です.
の
と
についての2次の導関数の表式が正の方向に進行する場合の
を
で置き換えたものなので,3次元波動方程式(5.2)の導出は前述のものと同様になります.
また,
の形の
も3次元波動方程式(5.2)式を満たします.このことを,次のように確かめておきます.
の
についての2次導関数を求めてみます.
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続けて,
の
についての2次導関数も求めてみます.
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についても同様です.故に,
ですが, は単位ベクトルであり,右辺の括弧の中を
の時間の2階微分でおきかえると,
となります.故に,
は3次元波動方程式(5.2)式を満たすことが確認されました.
逆に,3次元波動方程式(5.2)式を満たす関数は,
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のいずれかの形をもつことを示しておきます.
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なので,
となります.
の
についての2次導関数を求めてみます.
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の
についての2次導関数も求めてみます.
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についても同様な式が得られます.これらを3次元波動方程式(5.2)式に代入して計算します.
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最後の式を について積分すると,
となります.ただし,
は
を含まない
の任意の関数です.この式を
について積分し,計算していきます.
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はそれぞれ
の任意の関数です.したがって,恒等的に 0 でも可です.よって,3次元波動方程式(5.2)式を満たす関数は,3次元一般波動の形,
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をもつことが導出されました.また,正弦波は3次元一般波動の一部として含まれるので,3次元波動方程式の1つの解として,正弦波(正弦関数,余弦関数,複素数の指数関数でそれぞれ表現されます.)があることにも注意しておきましょう.
次に,3次元球面波が1次元波動方程式(5.1)式と同形の方程式の解として得られることを示します.便宜上,波源を原点におきます.点
の波源からの距離
は,
です.故に,次の関係があることがわかります.
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についても,同様な式が得られます.したがって,次式を得ます.
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最後の式を,3次元波動方程式(5.2)式に代入して変形します.
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これは,1次元波動方程式(5.1)式において, を
で置き換えた式なので,その解は次の通りです.
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最後の式の右辺第1項は,波源からあらゆる方向へ速さ で伝わる波動を,右辺第2項はあらゆる方向から速さ
で波源に集まる波動を表しています.また,それぞれの項に
の逆数が含まれているのは,波源から離れると振幅が減少することを示しています.