Chapter2 静電場(ガウスの法則)

2.1 電場の概念と近接作用

二つの電荷の間には,

$\displaystyle F=k_{0}\dfrac{q_{1}q_{2}}{r^{2}}$

の大きさのクーロン力が働きます.1785年,クーロンにより発見された当時,この力は空間を隔てたまま働き合うと認識されていました.(離れたものが力を及ぼすことを遠隔作用といいます.遠く隔てたままの作用です.)そして,力が働くメカニズムについては何も言及されませんでした.

 ある物理量が空間の場所によって決まるとき,その物理量を場といいます.例えば,物体の場所によって温度がきまるとき,温度場といいます.温度場は大きさだけの場ですので,スカラー場です.また,流体の速度が場所によって決まるとき,速度場といいます.速度場は大きさと向きをもった場ですので,ベクトル場です.以下考えていくように,電気の場のことを電場といいます.電場はベクトル場です.

 クーロンの法則が発見されてから,52年後の1837年,ファラデーは近接作用の概念を導入しました.この概念を用いて,次のようにクーロン力のメカニズムについて,踏み込んで考えましょう.

静電場と近接作用

Figure2.1: 静電場と近接作用

電荷が何もないとき,空間には特別なことは起こっていません.(図の(a)無の状態.)ここで,1つだけ電荷 $ Q[C]$ を置きます.そのとき,電荷の周りの空間がある種の緊張状態になります.その状態を電場 $ E$ が生じたと考えるのです.(図の(b)電場の発生.)電場が生じている状態で,もう一つの電荷 $ q[C]$ を置きます.すると,後から置いた電荷 $ q[C]$ は,はじめに置いた電荷 $ Q[C]$ から距離を隔てたまま力を受けるのではなく,空間に生じている電場 $ E$ から力 $ F[N]$ を受けると考えるのです.(図の(c)近接作用.)電荷がすぐ近くの空間から力を受けることを近接作用と言います.例えて説明すると,トランポリンの上に何も載っていないときは電場の無い状態で,そこに重りを置くとトランポリンが窪みますが,それが電場の生じている状態と考えることができます.そのとき,ボールを置くとトランポリンの窪みから(つまり電荷の場合は電場から)力を受けて,ボールは転がることになります.

 クーロンの法則,

$\displaystyle F=k_{0}\dfrac{qQ}{r^{2}}$

は,そのままでは遠隔作用による表式になっています.この式を変形して,近接作用の概念を式の上で表すことにしましょう.次のように,簡単に変形します.

$\displaystyle F=q\cdot k_{0}\dfrac{Q}{r^{2}}$

これだけで,近接作用の式に移行したのです.もっとわかり易くするために,この式で,

$\displaystyle E=k_{0}\dfrac{Q}{r^{2}}$

とおき,電場を表すと捉えます.これが,最初に置いた $ Q[C]$ の電荷がつくる電場 $ E[N/C]$ です.そうすると,

$\displaystyle F=qE$

という,電場とクーロン力の関係を表した近接作用の概念を表した式になります.すなわち,電荷 $ q[C]$ に作用するクーロン力 $ F[N]$ は,空間に生じている電場 $ E[N/C]$ から働くと認識することができるのです.

 ここで,一様な電場というものに触れておきます.2枚の平行な極板を用意して,それぞれ正と負の電荷を帯電させます.このとき,正と負の電荷の絶対値は等しいものとします.この2枚の極板の間には電場が生じますが,それはどこをとっても同じ大きさ,同じ向きの一様な電場です.この一様な電場 $ E[N/C]$ の中に電荷 $ q[C]$ を置くと,

$\displaystyle F=qE$

の大きさのクーロン力が生じるのです.

一様な静電場

Figure2.2: 一様な静電場

 

2.2 ガウスの法則

電荷 $ Q[C]$ を中心とする半径 $ R[m]$ の球面を考え,

$\displaystyle E(R)=k_{0}\dfrac{Q}{R^{2}}$

の式の両辺に,球の面積 $ 4\pi R^{2}[m^{2}]$ をかけて計算します.

  $\displaystyle 4\pi R^{2}E(R)=4\pi R^{2}k_{0}\dfrac{Q}{R^{2}}$    
% latex2html id marker 897
$\displaystyle \therefore$ $\displaystyle 4\pi R^{2}E(R)=4\pi k_{0}Q$    

ここで,真空の誘電率,

$\displaystyle \varepsilon_{0}\equiv\dfrac{1}{4\pi k_{0}}$

を定義すると,

$\displaystyle 4\pi R^{2}E(R)=\dfrac{Q}{\varepsilon_{0}}$

となります.最後の式は,電荷 $ Q[C]$ を中心とする半径 $ R[m]$ の球面上の電場 $ E(R)[N/C]$ に全球面の面積を掛けたものが, $ \frac{Q}{\varepsilon_{0}}[N\cdot m^{2}/C]$ に等しいことを表しています.

 上記のことが,電荷 $ Q[C]$ を囲む任意の閉曲面 $ S$ に対して成立することを証明します.

ガウスの法則1

Figure2.3: ガウスの法則1

閉曲面 $ S$ 上の微小面を $ dS[m^{2}]$ とします.$ dS[m^{2}]$ に外向きに立てた法線ベクトル(単位ベクトル)を $ \vec{n}(\vec{x})$ とすると,$ dS[m^{2}]$ 面上の電場 $ \vec{E}(\vec{x})[N/C]$ $ \vec{n}(\vec{x})$ 方向の成分は,

$\displaystyle \vec{E}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})$ $\displaystyle =E\cos\theta$    
  $\displaystyle =\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{Q}{r^{2}}\cos\theta$    

ここで,$ E[N/C]$ は電場の大きさ,$ r[m]$ は電荷 $ Q[C]$ から微小面 $ dS[m^{2}]$ までの距離, $ \theta[rad]$ $ \vec{E}(\vec{x})[N/C]$ $ \vec{n}(\vec{x})$ の間の角度です.このとき,電場 $ \vec{E}(\vec{x})[N/C]$ に垂直な微小面の面積は, $ dS'=dS\cdot\cos\theta$ になります.また,半径 $ R[m]$ の球面上の微小面積 $ df[m^{2}]$$ dS'[m^2]$ との比は,

$\displaystyle \dfrac{dS'}{df}=\dfrac{r^{2}}{R^{2}}$

になります.故に,

$\displaystyle \vec{E}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})dS$ $\displaystyle =E\cos\theta\cdot dS$    
  $\displaystyle =EdS'$    
  $\displaystyle =\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{Q}{r^{2}}\cdot\dfrac{r^{2}df}{R^{2}}$    
  $\displaystyle =\dfrac{Q}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{df}{R^{2}}$    

となります.これを閉曲面 $ S$ 上にわたって面積分すると,

$\displaystyle \int_{S}\vec{E}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})dS$ $\displaystyle =\dfrac{Q}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{1}{R^{2}}\int_{f}df$    
  $\displaystyle =\dfrac{Q}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{1}{R^{2}}4\pi R^{2}$    
% latex2html id marker 972
$\displaystyle \therefore\int_{S}\vec{E}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})dS$ $\displaystyle =\dfrac{Q}{\varepsilon_{0}}$    

となります.

 次に,電荷 $ Q[C]$ が閉曲面 $ S$ の外側にある場合を考えます.

ガウスの法則2

Figure2.4: ガウスの法則2

図より,

$\displaystyle dS'_{1}$ $\displaystyle =\cos\theta_{1}\cdot dS_{1}=\dfrac{r_{1}^{2}}{R^{2}}df$    
$\displaystyle dS'_{2}$ $\displaystyle =\cos(\pi-\theta_{2})\cdot dS_{2}=\dfrac{r_{2}^{2}}{R^{2}}df$    

の関係が成立します.故に,

$\displaystyle \vec{E}_{1}(\vec{x})\cdot\vec{n}_{1}(\vec{x})dS_{1}$ $\displaystyle =\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{Q}{r_{1}^{2}}\cos\theta_{1}dS_{1}$    
  $\displaystyle =\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{Q}{r_{1}^{2}}dS'_{1}$    
  $\displaystyle =\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{Q}{r_{1}^{2}}\cdot\dfrac{r_{1}^{2}}{R^{2}}df$    
  $\displaystyle =\dfrac{Q}{4\pi\varepsilon_{0}R^{2}}df$    

と,

$\displaystyle \vec{E}_{2}(\vec{x})\cdot\vec{n}_{2}(\vec{x})dS_{2}$ $\displaystyle =\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{Q}{r_{2}^{2}}\cos\theta_{2}dS_{2}$    
  $\displaystyle =-\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{Q}{r_{2}^{2}}\cos(\pi-\theta_{2})dS_{2}$    
  $\displaystyle =-\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{Q}{r_{2}^{2}}dS'_{2}$    
  $\displaystyle =-\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_{0}}\cdot\dfrac{Q}{r_{2}^{2}}\cdot\dfrac{r_{2}^{2}}{R^{2}}df$    
  $\displaystyle =-\dfrac{Q}{4\pi\varepsilon_{0}R^{2}}df$    

となります.従って,

$\displaystyle \vec{E}_{1}(\vec{x})\cdot\vec{n}_{1}(\vec{x})dS_{1}+\vec{E}_{2}(\vec{x})\cdot\vec{n}_{2}(\vec{x})dS_{2}=0$

であり,閉曲面 $ S$ 上にわたる面積分も 0 になります.すなわち,電荷 $ Q[C]$ が閉曲面 $ S$ の外にあるとき,

$\displaystyle \int_{S}\vec{E}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})dS=0$

が成立します.

 議論を一般的にして,閉曲面Sの内部に電荷 $ Q_{1},Q_{2},\cdots,Q_{N}[C]$ があり,外部に電荷 $ q_{a},q_{b},\cdots,q_{z}[C]$ がある場合を考えます.これらの電荷が $ S$ 上の任意の位置につくる電場をそれぞれ, $ \vec{E}_{1}(\vec{x}),\vec{E}_{2}(\vec{x}),\cdots,\vec{E}_{N}(\vec{x}),\vec{E}_{a}(\vec{x}),\vec{E}_{b}(\vec{x}),\cdots,\vec{E}_{z}(\vec{x})[N/C]$ とすると,これらを重ね合わせた全電場 $ \vec{E}(\vec{x})[N/C]$ は,

$\displaystyle \vec{E}(\vec{x})=\vec{E}_{1}(\vec{x})+\cdots+\vec{E}_{N}(\vec{x})+\vec{E}_{a}(\vec{x})+\cdots+\vec{E}_{z}(\vec{x})$

になります.ここで,閉曲面上 $ S$ 全体について,面積分を実行すると,

$\displaystyle \int_{S}\vec{E}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})dS$ $\displaystyle =\int_{S}\vec{E}_{1}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})dS+\cdots+\int_{S}\vec{E}_{N}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})dS$    
  $\displaystyle \,\,\,+\int_{S}\vec{E}_{a}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})dS+\cdots+\int_{S}\vec{E}_{z}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})dS$    
  $\displaystyle =\dfrac{Q_{1}}{\varepsilon_{0}}+\cdots+\dfrac{Q_{N}}{\varepsilon_{0}}+0+\cdots+0$    
% latex2html id marker 1026
$\displaystyle \therefore\int_{S}\vec{E}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})dS$ $\displaystyle =\dfrac{1}{\varepsilon_{0}}(Q_{1}+\cdots+Q_{N})$    

となります.電荷が空間内のある領域にわたって連続的に分布しているとき,電荷密度(単位体積当たりの電荷)を $ \rho(\vec{x})[C/m^{3}]$ とすると,上式は,

$\displaystyle \fbox{$\int_{S}\vec{E}(\vec{x})\cdot\vec{n}(\vec{x})dS=\dfrac{1}{\varepsilon_{0}}\int_{V}\rho(\vec{x})dV$}$ (2.1)

となります.(右辺は体積分です.)この(2.1)式をガウスの法則(積分形)と言います. ベクトル解析のガウスの定理は,任意のベクトル $ \vec{A}\,$ について,

$\displaystyle \int_{V}\nabla\cdot\vec{A}dV=\int_{S}\vec{A}\cdot\vec{n}dS$

と表せます.この定理より,(2.1)式は,

$\displaystyle \int_{V}\nabla\cdot\vec{E}(\vec{x})dV=\dfrac{1}{\varepsilon_{0}}\int_{V}\rho(\vec{x})dV$

と変形されます.この式の両辺のそれぞれの被積分関数は等しくなります.故に,

$\displaystyle \fbox{$\nabla\cdot\vec{E}(\vec{x})=\dfrac{\rho(\vec{x})}{\varepsilon_{0}}$}$ (2.2)

が成立します.この(2.2)式をガウスの法則(微分形)と言います.