二つの電荷の間には,
の大きさのクーロン力が働きます.1785年,クーロンにより発見された当時,この力は空間を隔てたまま働き合うと認識されていました.(離れたものが力を及ぼすことを遠隔作用といいます.遠く隔てたままの作用です.)そして,力が働くメカニズムについては何も言及されませんでした.
ある物理量が空間の場所によって決まるとき,その物理量を場といいます.例えば,物体の場所によって温度がきまるとき,温度場といいます.温度場は大きさだけの場ですので,スカラー場です.また,流体の速度が場所によって決まるとき,速度場といいます.速度場は大きさと向きをもった場ですので,ベクトル場です.以下考えていくように,電気の場のことを電場といいます.電場はベクトル場です.
クーロンの法則が発見されてから,52年後の1837年,ファラデーは近接作用の概念を導入しました.この概念を用いて,次のようにクーロン力のメカニズムについて,踏み込んで考えましょう.
電荷が何もないとき,空間には特別なことは起こっていません.(図の(a)無の状態.)ここで,1つだけ電荷 を置きます.そのとき,電荷の周りの空間がある種の緊張状態になります.その状態を電場 が生じたと考えるのです.(図の(b)電場の発生.)電場が生じている状態で,もう一つの電荷 を置きます.すると,後から置いた電荷 は,はじめに置いた電荷 から距離を隔てたまま力を受けるのではなく,空間に生じている電場 から力 を受けると考えるのです.(図の(c)近接作用.)電荷がすぐ近くの空間から力を受けることを近接作用と言います.例えて説明すると,トランポリンの上に何も載っていないときは電場の無い状態で,そこに重りを置くとトランポリンが窪みますが,それが電場の生じている状態と考えることができます.そのとき,ボールを置くとトランポリンの窪みから(つまり電荷の場合は電場から)力を受けて,ボールは転がることになります.
クーロンの法則,
は,そのままでは遠隔作用による表式になっています.この式を変形して,近接作用の概念を式の上で表すことにしましょう.次のように,簡単に変形します.
これだけで,近接作用の式に移行したのです.もっとわかり易くするために,この式で,
とおき,電場を表すと捉えます.これが,最初に置いた の電荷がつくる電場 です.そうすると,
という,電場とクーロン力の関係を表した近接作用の概念を表した式になります.すなわち,電荷 に作用するクーロン力 は,空間に生じている電場 から働くと認識することができるのです.
ここで,一様な電場というものに触れておきます.2枚の平行な極板を用意して,それぞれ正と負の電荷を帯電させます.このとき,正と負の電荷の絶対値は等しいものとします.この2枚の極板の間には電場が生じますが,それはどこをとっても同じ大きさ,同じ向きの一様な電場です.この一様な電場 の中に電荷 を置くと,
の大きさのクーロン力が生じるのです.
電荷 を中心とする半径 の球面を考え,
の式の両辺に,球の面積 をかけて計算します.
ここで,真空の誘電率,
を定義すると,
となります.最後の式は,電荷 を中心とする半径 の球面上の電場 に全球面の面積を掛けたものが, に等しいことを表しています.
上記のことが,電荷 を囲む任意の閉曲面 に対して成立することを証明します.
閉曲面 上の微小面を とします. に外向きに立てた法線ベクトル(単位ベクトル)を とすると, 面上の電場 の 方向の成分は,
ここで, は電場の大きさ, は電荷 から微小面 までの距離, は と の間の角度です.このとき,電場 に垂直な微小面の面積は, になります.また,半径 の球面上の微小面積 と との比は,
になります.故に,
となります.これを閉曲面 上にわたって面積分すると,
となります.
次に,電荷 が閉曲面 の外側にある場合を考えます.
図より,
の関係が成立します.故に,
と,
となります.従って,
であり,閉曲面 上にわたる面積分も 0 になります.すなわち,電荷 が閉曲面 の外にあるとき,
が成立します.
議論を一般的にして,閉曲面Sの内部に電荷 があり,外部に電荷 がある場合を考えます.これらの電荷が 上の任意の位置につくる電場をそれぞれ, とすると,これらを重ね合わせた全電場 は,
になります.ここで,閉曲面上 全体について,面積分を実行すると,
となります.電荷が空間内のある領域にわたって連続的に分布しているとき,電荷密度(単位体積当たりの電荷)を とすると,上式は,
となります.(右辺は体積分です.)この(2.1)式をガウスの法則(積分形)と言います. ベクトル解析のガウスの定理は,任意のベクトル について,
と表せます.この定理より,(2.1)式は,
と変形されます.この式の両辺のそれぞれの被積分関数は等しくなります.故に,
が成立します.この(2.2)式をガウスの法則(微分形)と言います.