古典論とは量子化していない物理を意味します.したがって,相対性理論は古典論になります.しかし,古典物理学という用語を使用する場合は,19世紀までの物理学を指し,相対性理論は現代物理学の範疇に属するものとします.量子論の基礎方程式であるシュレディンガー方程式は,古典力学の関係式 を量子化して得られるものでした.ここで,特殊相対性理論と量子力学を融合する問題を考えてみましょう.特殊相対性理論の基礎的な関係式,
すなわち,
において,物理量を次のように演算子で置き換えて量子化します.
このとき,
となりますが,この演算子の関係を状態 に作用させます.
この特殊相対論的量子力学の基礎方程式をクライン-ゴルドン方程式といいます.
ここで,特殊相対性理論の表記方法を導入しましょう.つまり,座標ベクトルは,反変ベクトルを,
として,共変ベクトルを,
とします. は計量テンソルで,
と定義します.計量テンソルによって,添え字の上げ下げができます.また,
と,
という微分演算子を導入します.これらの演算子の縮約をとると,
となります.このとき,クライン-ゴルドン方程式は,
と表せます.
特殊相対性理論の基礎的な関係式(23.1)式,
を,もう1つ別の方法で量子化して,ディラック方程式と呼ばれる2つ目の特殊相対論的量子力学の基礎方程式を導きましょう.(23.1)式を運動量について1次式で表し,次式のようにおいてみます.
ただし,
です.(23.3)式を2乗すると,次のようになります.
この式をもとの(23.1)式と比較すると, と は次の関係式を満たさなければなりません.
(23.3)式の両辺を 倍した式,
を量子化しましょう.すなわち,次のようにエネルギーと運動量を演算子に置き換えます.
このとき,
となりますが,この演算子の関係式を状態 に作用させます.
この(23.7)式をディラック方程式といいます.ここで, と は(23.4)式,(23.5)式,(23.6)式を満たさなければなりません.この条件を満足するのは,普通の数ではなく,次のディラック行列と呼ばれる 行列です.
ここで, は のパウリ行列, と記してあるのは 単位行列です.また,状態 は のスピノルと呼ばれる量です.
ディラック方程式をシンプルな形で表現するために,γ行列と呼ばれる行列を,次のように定義して導入します.
このとき,γ行列は次の関係式を満たします.
ただし,左辺の括弧は反交換子で,
で定義される記号で,右辺の は次の式で定義される行列です.
ここで, は 単位行列を表します.(23.8)式の導出は次の通りです.第0成分どうしの反交換関係は,
です.第0成分と第 成分の反交換関係は,
です.第 成分と第 成分の反交換関係は,
となります.ただし,(23.4)式,(23.5)式,(23.6)式を使いました.また,γ行列は次の関係式も満たします.
(23.9)式の導出は次の通りです.第0行列は,
ですから,
となります.第 行列 は,
ですから,
となります.(証明終.)
γ行列を使って,ディラック方程式(23.7)式,
をシンプルに表しておきましょう.次のように変形していきます.
したがって,
と表せます.さらに,ディラック方程式は次のようにも表せます.(23.10)式において,両辺のエルミート共役をとり,計算します.( は左に演算する微分演算子です.)
ここで,
とおき,(23.9)式と(23.8)式を使うと,
が導かれます.