同種粒子とは,原理的に区別することができない粒子のことをいいます.素粒子は同種粒子です.つまり,電子,陽子,中性子,クォーク,レプトンといった粒子は,それぞれにおいて同種粒子です.
1種類の同種粒子からなる多粒子系について考えます. 粒子系の状態の波動関数を,次のように表します.
粒子系の状態について,対称的状態と反対称的状態というものを定義しておきましょう.対称的状態とは,1対の粒子の入れ替えについて,変化しない状態のことをいいます.
それに対して,反対称的状態とは,1対の粒子の入れ替えについて,符号が反対になる状態のことをいいます.
同種粒子からなる多粒子系については,次のような原理が成立します.
原理21.1 "同種粒子の状態は,対称的状態か,または反対称的状態です."
この原理を導出しておきましょう.まず,粒子の入れ替えを行う演算子 を次のように定義しておきます.
このとき,同種粒子の場合,この式の右辺は元の状態の定数倍になると仮定しましょう.
ここで,2回続けて同じ1対の粒子の入れ替えを行うと,
となります.2回同じ1対の粒子を入れ換えると,元の状態と完全に一致するはずです.
したがって,
となります.故に,同種粒子の状態は,対称的状態か,または反対称的状態になります.
一般に,角運動量の値は整数か,または半整数になります.スピンの場合も例外ではありません.整数スピンをもつ粒子をボーズ粒子(ボゾン)といい,半整数スピンをもつ粒子をフェルミ粒子(フェルミオン)といいます.ボゾンの状態は対称的状態であり,ボーズ統計に従います.フェルミオンの状態は反対称的状態であり,フェルミ統計に従います.ボゾンの代表例は光子(フォトン)であり,フェルミオンの代表例は電子です.
フェルミオンの場合,その状態は反対称的状態でした. 個のフェルミオンからなる系の波動関数を,
と表します.ただし, はスピン座標です.このとき,任意の2つのフェルミオンの座標の入れ替えを行うと,
となります.フェルミオンの状態は反対称的状態ですので,
の関係が成立します.ただし, と は, から までの中の任意の2個の粒子を表します.ここで,もし,2つのフェルミオンが同じ座標を占めて,それが と だったとします.このとき,上の式からわかるように,波動関数は 0 になってしまいます.つまり,
原理21.2(パウリの排他律) "フェルミオンはスピンを含め,同一の状態を2つ以上占めることができません."
というパウリの排他律という原理が成立するのです.